愛しの故郷

架空の人物が作る小話と寓話置き場です。あなたの心にひとときの安らぎを。

獣人少女は拾った生き物の世話をするために苦手な野菜料理を学ぶようです~其の6

お盆に載せ、お客さんのいる部屋の扉を軽くノックすると小さな小さな、沼地にいる蚊よりも小さな、鼻をすするような頷くような音が返ってくる。いい、ということなのかな…そう思い、部屋の扉を開いた。

 

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頭が痛い。寒い。体が痛い。苦しい。
ケモノ女が扉をノックする音が響いて、煩わしい。

それでも俺の体は生きようとしているのか、ノックの音を聞くと反射的に喉から声が搾り出される。

入ってきたケモノ女は妙な匂いのする茶色の液体が入ったコップを差し出し、仕草で飲めと強く勧めた。

顔を顰めながら渋々飲むと、女はそれで良いというように頷く。
不快な味と強烈な匂いにおさまっていた吐き気が込み上げ、口元を押さえた俺に、今度は赤い透明な液体が入ったコップがさしだされた。

ご丁寧にも麦わらが刺されているから、これで吸え、という事なんだろう。俺の嚥下能力にまで配慮していて、いちいち小癪に触る女だ。

こみあげる吐き気をどうにかしたくて、差し出されたグラスの中身を思い切り吸い上げた途端、花と果実のむせかえるような芳香と程よい酸味とバランスのとれた心地よい甘みが俺の口内を縦横無尽に駆け巡る。

美味いじゃないか。 

そう思って女に視線を向け、フンと鼻を鳴らして返事をした。

その様子を見て女はニコニコと笑顔を向け、それでいいと言うようにうなづいて空になったグラスを俺の手から取り上げ、グラスを軽く持ち上げておかわりはと仕草で聞いてくる女に、首を横に振っていらないと返事を返す。

さっきの茶色い方の液体のせいだろう。なんだかとても…眠かった。

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