愛しの故郷

架空の人物が作る小話と寓話置き場です。あなたの心にひとときの安らぎを。

世界を手に入れてもまだ足りない〜日常編〜或る男が見つけた物

キャスター:世界を揺るがすような新発見をしたとのことですが、中村教授、現在のお気持ちは?

中村教授:信じられない気持ちですが、とても嬉しく、光栄に思っています。

キャスター:物理学の法則を覆すような新発見、渦の法則の第一発見者であり今回ノーベル物理学賞を受賞することとなった中村教授、実は法則を発見したのはどこのご家庭でもよくある、とある「家事」をなさっている最中だったそうですね。

中村教授:そうなんです。何を隠そう私、家事、特に掃除と洗濯が大好きでしてね。あそこには物理学の喜びと楽しみが隠れていると常々思っています。 けれどまさか、縦型洗濯機に新発見が隠されているとは思ってもいませんでした。水流の渦を見ているうちに回転する微細な素子の動きを発見出来るとは…

キャスター:ノーベル物理学賞を受賞した中村教授のインタビューでした。授賞式は新型ノロウイルス対策のために居住国での授与式を…

ここで私は正気になり、何度目だろうと心中で思った。

自らが発見した「渦の法則」が生み出した時空の渦に囚われ、自分がノーベル賞を授与した時間の中心から抜け出せなくなるとは思っても見なかった。誰か助けてくれ。このままでは時間に囚われたまま家族にも会えない。

「ママー!また洗濯機が壊れたー!」

「あらまた?パパが自分のパンツ洗うといつもこうなるよね。パパがお散歩から帰ってきたらおはなししておこっか。」

頼む、妻よ子よ。そこでどうか、強制的に脱水をしてくれ。でないと私は…

「うん!洗濯機はどうするー?ママ。」

「パパの家事の邪魔をしちゃいけないし、もっと壊れちゃうかもしれないからそっとしておこっか。」

「はーい!」

ああ、まただ。